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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)2740号 判決 1962年5月24日

原告 三徳信用組合

被告 日本電信電話公社

訴訟代理人 藤井俊彦 外八名

主文

原告の本訴請求中、原告が訴外大阪電路工業株式会社から被告に対する工事代金の請求並びに受領権限の委任を受けたとして該工事代金の支払いを求める訴(予備的請求の一)はこれを却下し、その余の各請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

理由

一、(主たる請求についての判断)原告は、昭和二十九年十二月二十二日、訴外会社から同会社と被告間に締結された工事請負契約における金二百四十六万円の工事代金債権の譲渡を受け、同月二十五日右債権譲渡につき被告の承諾を得たと主張し、被告に対し右工事代金の残額金百二十四万円の支払いを求めるので、先づ訴外会社と原告間に右債権譲渡の契約が締結されたか否かの点について考察する。

被告と訴外会社との間に、被告を註文主、訴外会社を請負人とする近大建請工事第八六号尼崎局区内加入者新増設工事(以下本件工事と略称する)請負契約が締結されたことは、当事者間に争いがなく、証人松下胤次の証言(第一回)により真正に成立したと認める乙第七号証によれば、右工事請負契約が締結されたのは昭和二十九年十二月二十日であり、契約金額は二百四十六万円で、工期は同年同月二十一日着工し昭和三十年三月二十五日完成するものであつたことが認められ、この認定を左右する証拠はない。そして、昭和二十九年十二月二十二日訴外会社と原告との間に、訴外会社が原告に対して右工事代金の請求並びに受領権限を委任する旨の契約をなし、その旨の委任状を交付し、訴外会社と原告の双方が連署の上被告公社に届出でなければ右委任解除の効力がない旨附記した委任状を被告公社近畿電気通信局支出役会計課長宛に提出し、同月二十五日同会計課長の承認を得たことも、当事者間に争いがない。

ところで、原告は、訴外会社と原告との間に昭和二十九年十二月二十二目右工事代金債権の譲渡契約がなされたのであるが、その譲渡の形式を訴外会社が原告に右工事代金債権の請求並びに受領権限を委任したようにして前記委任状を交付した旨主張し、証人永野隆衛の証言及び同朝倉美雄の証言の一部には原告の右主張に副うものであるが、右各証言は証人松下胤次(第一、二回)、同長岡赳夫、同武田忠次郎、同朝倉美雄(一部)の各証言に対比してたやすく措信できず、他に原告の右主張を肯認するに足る証拠は存しない。却つて、成立に争いのない甲第一及び第七号証、証人長岡赳夫、同永野隆衛(但し前記措信しない部分を除く)、同武田忠次郎、同朝倉美雄(但し前記措信しない部分を除く)、同松下胤次、(第一、二回)の各証言を綜合すれば、請負業者である訴外会社が金融業者である原告から融資を受けその債務を担保するために前記工事代金債権の請求並びに受領権限を委任したに過ぎないことが認められる。

してみると、訴外会社と原告間に前記工事代金債権譲渡の契約が締結されたとの原告主張事実はこれを認定し得ないから、原告の右請求は爾余の争点を判断するまでもなく理由なきに帰し棄却を免れない。

二、(予備的請求の一についての判断)次に、原告は、昭和二十九年十二月二十二日訴外会社から前記工事代金債権の請求並びに受領権限の委任を受けていると主張し、被告に対し右工事代金の残額金百二十四万円の支払いを求めるので、原告が右請求につき当事者適格を有するか否かの点について検討する。

当事者適格は、何人と何人とを対立させて審理判決することが訴訟物たる権利又は法律関係をめぐる紛争を解決するのに必要且つ有意義であるかという当事者と訴訟物との具体的個別的な関係から決せられる問題であつて、当事者能力の如く当事者の形式的地位との関連で抽象的且つ一義的に定まる問題ではない。そして後者が専ら訴訟法的な問題であるのに比し実体関係的性格を有しており、一般的に訴訟物たる権利義務の主体である者が同時に正当な当事者としての適格をもつのが通常である。これを給付訴訟について見れば、給付を求める地位にあると主張する者が原告適格を有し、その義務ありと主張される者が被告適格をもつのが原則である。しかしながら、実体法上の権利の帰属者が直ちに正当な当事者であると即断することはできないのであつて、特別の理由から一般の場合の利益の帰属主体に代り第三者が当事者適格をもつことがあり、これが訴訟担当又は訴訟信託といわれているものである。そして訴訟担当又は訴訟信託といわれる現象は実体法の定めるところにより生ずる場合もあるし、訴訟法が定めることもあり、又他の法律の規定を類推して解釈上認められる場合もあるのであるが、このような場合本人自身は背後にかくれて第三者が手続主体として表面に現れ代理人としてでなく当事者として即ち自己の名において訴訟を追行し判決を受け、その判決が実体的利益の帰属主体である本人に対しても効力を生ずるに過ぎない。ところで本来の利益帰属主体がその意思に基づきその権利についての訴訟追行権を第三者に授与することは、講学上任意的訴訟担当(任意的訴訟信託)といわれているものであり、選定当事者及び手形法上の取立委任裏書の制度は任意的訴訟担当の一例であるが、このように法が明らかに許容している場合以外に、自由に任意的訴訟担当が認められるかどうかは問題の存するところであるが、弁護士代理の原則及び信託法第十一条の律意に徴し、原則として無効であるといわなければならない。しかし、権利の帰属者が管理処分の権能を他人に授与すべき取引上の特別の必要のある場合これに附随して訴訟追行権の授与を肯定すべきことも考えられるところである。(例えば頼母子講の管理人)ところで、本件における原告の場合を見るに、原告の主張するところによれば、原告は訴外会社から同会社の被告に対する工事代金債権の請求並びに受領権限を委任された代理人に過ぎず、従つて訴外会社に対して右工事代金債権の管理処分の権能の授与(債権を信託的にでも譲渡することなくしてこのような授与が本件のような場合に許容されるかどうかがそもそも問題のあるところでむしろ民事訴訟法第七十九条信託法第十一条の規定の精神に反し否定せらるべきものものであるが)があつたということはできないから、原告が右訴について原告適格を有しているとは言い難い。

よつて、原告の右訴は訴訟要件を欠くから不適法として却下する外ない。

三、次に、原告の債務不履行に基く損害賠償の請求(予備的請求の二の一)について検討する。

(一)  原告は、訴外会社から被告に対する前記工事代金債権の譲渡を受けたことを前提として、被告に債務不履行に基く損害賠償義務があると主張するけれども、既に判断したように原告が訴外会社から前記工事代金債権の譲渡を受けたことはこれを認めることができないから、爾余の争点の判断を侯つまでもなく、右請求は理由がないことになり棄却を免れない。

(二)  更に原告は、原告の訴外会社に対する融資債権の担保として訴外会社から前記工事代金債権の代理受領権限の委任を受けているものであるところ、被告に対し昭和三十年四月十三日右工事代金の残額金百二十四万円の支払請求書を提出したから遅くとも同月二十二日までに支払いがなさるべきであつたのに、被告がその履行を遅滞している間に、同月二十二日訴外朝倉美雄の申立にかかる右工事代金債権の仮差押命令が発せられ、次いで同年五月二日同訴外人の申立にかかる債権差押及び転付命令が発せられたため、原告としては被告から右請求金額の弁済を受け得なくなつて債権担保の目的を失い結局金百二十四万円の損害を被つたから、被告はこれが損害を賠償する義務がある、と主張する。よつて按ずるに、原告が訴外会社に対する融資債権担保の方法として訴外会社から被告に対する前記工事代金債権の代理受領権限の委任を受けたことは既に認定したところであり、原告が被告に対し右工事代金残額金百二十四万円の支払請求書を提出し受理されたことは当事者間に争いがない。そして成立に争いがない甲第二号証及び乙第十号証の一、証人林丑夫の証言によれば、右支払請求書が被告に提出受理されたのは昭和三十年四月十四日であつたことが認められ、この認定を左右する証拠は存しない。

ところで、原告は、被告公社における工事代金支払の従来の慣例は支払請求書が受理されてから一週間乃至十日以内に支払われることになつていたから、前記工事代金の残額は遅くとも同月二十二日までに支払われるべきであるのに、被告はこれが支払いをなさず履行を遅滞していたものであると主張し、被告は、訴外会社と被告間に締結された工事請負契約の契約書第二十三条に、工事代金は支払請求書を受理した後四十日以内に支払いをなすべきことが約定されているのであるから、その支払時期は同年五月二十四日までであり、被告に履行遅滞は存しない旨抗争するので考えるに、証人松下胤次(第一乃至三回)、同林丑夫、同黒田靖吉の各証言を綜合すれば、支払請求書は先づ被告公社近畿電気通信局の契約課に提出され、次いで契約課から会計課に送付され、同課調定係において調査の上同課支払係に廻付され支払いの運びに至ること及び支払請求書を受理してから工事代金を支払うまでには通常二週間前後の日数を要し、被告公社においてはそのような取扱いが従来なされてきたことが認められる。しかしながら、前掲乙第七号証によれば、訴外会社と被告間に締結された工事請負契約書第二十三条第二項には請負人たる訴外会社から工事代金の支払請求があつたときはその支払請求書を受理した日から四十日以内に支払うものとするとの約定がなされていることが認められ、この認定を左右する証拠は存しない。従つて、本件工事残代金の支払期限は同年五月二十四日までであるといわなければならない。

そもそも期限は債務者の利益のために定められたものと推定されるのであり、期限の利益は相手方の利益を害せさる限りこれを抛棄することができるものであるところ、特段の事情の認められない本件においては、訴外会社と被告間に締結された前記工事請負契約書第二十三条において約定されている工事代金の支払期限は、債務者である被告の利益のために定められたものというべきであつて、前記認定したように被告において支払請求書を受理してから二週間前後の期間内に工事代金の支払いがなされる事例が多かつたとしても、それは当該請負契約の当事者間にそのような約定がなされていたか、そうでなくしてその場合にも本件におけるような被告が支払請求書を受理してから四十日以内に支払をするというような約定があつたとすれば、債務者たる被告が期限の利益を抛棄して工事代金の支払いをしたものと考えるのが相当である。

そうすると、被告が昭和三十年四月十三日原告の提出した前記支払請求書を受理しながら同年五月二十四日まで支払いをしなかつたことが、該工事代金債務の履行を遅滞したものとは到底言い難い。

尚右支払期限内である昭和三十年四月二十二日訴外朝倉美雄の申立にかかる前記工事代金債権に対する仮差押命令が被告に送達され、次いで同年五月二日右訴外人の申立にかかる金二百二十六万三千五百円(内本件工事代金分は当時の残全額たる金百五十一万六千五百円、ちなみに乙第四号写中契約番号近大通請とあるは近大建請の誤記と認められる)の債権差押及び転付命令が被告に送達せられ、又訴外天満社会保険出張所差押執行官吏から訴外会社の健康保険料、厚生年金保険料及び滞納処分金の合計金二十二万一千七百八十円に対する差押通知がなされたため(尤もこの差押通知は本件工事代金債権を適式に表示してなしたものとは認め難い)、被告は前記工事代金の残額金百二十四万円、追加工事分の工事代金二十七万六千五百円等の合計金百五十万六千五百円から、昭和三十年六月二十三日訴外朝倉美雄に対し金百二十九万四千六百七十五円を、同月二十五日訴外天満社会保険出張所に対し金二十二万一千八百二十五円を夫々支払いよつて本件工事代金債務は消滅したものであることは、成立に争いのない甲第二、三、十一号証、乙第二、四号証及び同第十号証の一、証人松下胤次の証言(第二回)により真正に成立したと認める乙第六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認める乙第三及び第五号証、証人松下胤次の証言(第一回)を綜合してこれを認定することができ、この訴外朝倉美雄申立にかかる仮差押、差押、転付命令のため被告は原告の請求に応じ得なくなつたが、右転付命令等の申立は被告の関知しない訴外朝倉美雄の行為であつて、被告としては右転付され又は差押えられた訴外会社の工事代金を支払わざるを得なかつたものであるから、被告の右措置を以て債務不履行と目し難いことは多言を要しない。訴外天満社会保険出張所のした差押の効力を問題としてみても同所の支払を受けた金は朝倉のえた転付命令の内金だから影響はない。

してみると、原告の右請求はその余の判断をなすまでもなく失当であつて棄却を免れないといわなければならない。

四、更に、原告の不法行為に基く損害賠償の請求(予備的請求の二の二)について検討する。

(一)  原告は、訴外会社から被告に対する前記工事代金債権の譲渡を受けたことを前提として、被告に右債権侵害の不法行為がありこれにより原告は金百二十四万円の損害を被つたから被告に対し右損害の賠償を求める旨主張するけれども、既に判断したように、原告が訴外会社から前記工事代金債権の譲渡を受けたことはこれを認めることができないから、爾余の争点の判断を俟つまでもなく右請求は理由がなく棄却を免れない。

(二)  次に、原告は、原告の訴外会社に対する融資債権の担保として訴外会社から前記工事代金債権の代理受領権限の委任を受けたものであるところ、被告には原告が主張するような数々の不法行為があり、このため原告は被告に対し金百二十四万円の支払請求書を提出しておきながらこれが支払を受け得ない結果となり、右代理受領権限を侵害され、右請求金額相当の損害を被つたから被告に対してこれが損害の賠償を求める旨主張するので、以下にこの点について考察する。

先づ、原告は、被告は訴外会社が金融機関より融資を受ける際その支払を担保するため被告の印章を偽造して被告の承認したような虚偽の工事代金債権の代理受領権限の委任状を作成交付して金融機関を欺罔していた事実を知悉しながら、昭和二十九年十二月二十日訴外会社に対して前記工事を請負わせたことは、訴外会社に対して不当に信用を供与したものであるというのである。そして、被告が同年十一月十九日頃訴外会社において被告の印章を偽造し原告主張の如き虚偽の委任状を壇に作成行使していたことを知つた事実は被告の認めるところであるが、成立に争いのない甲第七号証によれば、当時被告は訴外会社における不始末は前同日頃発覚した事実のみであると考え、同種不始末がその後続出するとは予想もできなかつたため、訴外会社から始末書を徴し訴外会社に対し一ケ月程度の指名停止の措置をとつて一応訴外会社の反省を求めたものであることが認められるから、このような経緯を考えるとき、被告が前記の如く訴外会社の不始末を知つた一ケ後の同年十二月二十日訴外会社に対して前記工事を請負わしめたからといつて、それが訴外会社に対し不当な信用を供与をしたと断ずることはできない。況んや被告が訴外会社との間に前記工事請負契約を締結した行為が原告の代理受領権限に対する侵害行為になるとは到底考えられない。

次に、原告は、被告公社の社員が訴外朝倉美雄に原告の支払請求書提出の事実を告知し、同訴外人の申立にかかる前記工事代金債権に対する仮差押命令、並びに債権差押及び転付命令は、同訴外人と被告社員の通謀によるものであつて、これは原告の工事代金の代理受領権限に対する侵害行為であると主張するところ、訴外朝倉美雄が被告公社の関係者(被告公社の使用人かどうかも明かでない。)から原告が昭和三十年四月十四日金百二十四万円の工事代金の残額支払請求書を提出している事実を聞知したことは、証人朝倉美雄の証言によつてこれを認め得るけれども、全証拠を以てしても被告公社の社員が訴外朝倉美雄と通謀して原告の工事代金の代理受領権限を阻害するために原告主張の如き挙に出でたことはこれを認めることができない。

又原告は、被告は原告が訴外会社に対する融資債権の担保のため前記工事代金の代理受領権限の委任を受けていることを知悉し、しかも原告の提出にかかる該工事代金残額金百二十四万円の支払請求書を受理しているのであるから、その後訴外朝倉美雄の申立にかかる該工事代金債権に対する仮差押命令の送達を受けたような場合には、原告に対して速かにその旨通知すべき義務があるのに、故意に右通知を遅延して原告が自己の債権を保全すべき時期を逸せしめ損害を被らしめた旨主張するのであるが、仮令原告が主張するような事情があつたとしても、該工事代金債権に対する仮差押命令における第三債務者である被告が、債務者である訴外会社の代理受領権の受任者である原告に対して、特に契約によつて速かにその旨を通知することを義務づけられている場合は格別であるが、そうでないときには仮差押命令の送達を受けたことを通知することを義務づけられているとは解し得ない。蓋し、原告は訴外会社に対する自己の融資債権の担保方法として被告に対する前記工事代金債権の代理受領権限の委任を受けているとはいえ、被告に対する関係においてはあくまで訴外会社の工事代金受領に関する代理人であるに過ぎず、そして右債権仮差押命令は第三債務者たる被告公社の外その債務者である訴外会社にも当然送達される(民訴法第五百九十八条第二項)のであるから、原告としては寧ろ利害関係の大きい代理受領につき本人である訴外会社から容易に右仮差押の事実を知り得べき状況にあるからである。そして、本件において、被告が原告に対し契約上の右通知義務を負担しているというような事実を認めるべき証拠も存しないから、被告に右通知義務があるとは言い得ないものである。従つて、原告のいうように被告が右仮差押命令の送達を受けた日から十数日も経過した昭和三十年五月六日頃原告に右仮差押命令の送達があつた事実を通告したとしても、被告が速かに右事実を原告に通告すべきであるのに故意にこれを遅延し、原告の債権確保の時期を逸せしめたとまでは到底認めることができない。

更に、原告は、昭和三十年五月二日訴外朝倉美雄の申立にかかる債権差押及び転付命令の送達を受けても、原告が自己の債権を保全するため前記工事代金債権に対する仮差押命令を申請し同月十九日該仮差押命令が被告に送達された以上、被告としてはその本案判決があるまでは右転付金の支払いをなすべきでなく民事訴訟法第六百二十一条の規定に基き該金員を供託すべき義務があるのに、被告は不注意にも右措置をとらず訴外朝倉美雄に転付金を支払つたことは、被告に過失があるといわなければならない旨主張する。そして、訴外朝倉美雄の申立にかかる同訴外人を債権者、訴外会社を債務者、被告を第三債務者とする同訴外人の訴外会社に対する金二百二十六万三千五百円の弁済充当の為、訴外会社の被告に対して有する前記本件工事代金残債権金百五十一万六千五百円の差押及び転付命令が昭和三十年五月二日大阪地方裁判所により発せられ、同月三日頃被告に該命令が送達されたことは、成立に争いのない乙第四号証及び郵便官署作成部分の成立につき争いがなくその余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる同第八号証によりこれを認めることができ、民訴法第六百条第二項との関係上債務者たる訴外会社に対しても右転付命令はその頃送達せられたものと推認するのが相当である。又原告の申立にかかる原告を債権者、訴外会社を債務者、被告を第三債務者とする前記工事代金債権残額金百二十四万円に対する仮差押命令が同月十九日大阪地方裁判所により発せられその頃被告に該命令が送達されたことは、成立に争いのない甲第十一及び十二号証によりこれを認めることができる。しかしながら、差押えられた債権の全額について又は執行債権の全部を満足させる範囲において(本件の場合は差押えられた本件工事分の残債権全額につき転付命令が発せられたこと前認定の通り)転付命令が発せられるとその執行手続は終了し、その後の債権者も配当要求をする余地がなく、転付命令が有効な限り、債権は債務者から債権者へ移転するのであるから、右に認定したように訴外朝倉美雄の申立にかかる前記債権差押及び転付命令が訴外会社と被告に送達された場合被告としては該工事代金残債権は訴外会社から訴外朝倉美雄に移転したものと認める外なく同訴外人に対してこれを支払いせざるを得ないものである。そして右強制執行手続は債務者たる訴外会社及び第三債務者たる被告に対する転付命令の送達によつて終了する(民訴法第六百条第二項)から、その後原告において前記の如き仮差押命令を得ても最早配当加入する余地は全くないのである。しかして、原告はこのような場合にも被告としては民事訴訟法第六百二十一条の規定に基き該転付金を供託すべきであると主張するけれども、右規定は金銭債権の強制執行につき配当加入のあつた場合、第三債務者の債務額供託に関するものであるところ、右に述べたように配当加入の余地のない本件においては右規定の適用さるべき余地は全くないのであるから、原告の右主張は全く独自の見解という外なく到底左祖し難い。

してみると、被告には原告が主張するような故意又は過失に基く代理受領権侵害行為があつたとは認められないから、爾余の争点を判断するまでもなく原告の右請求は失当であり棄却する外はない。

五、以上説示したとおり、原告の本訴請求中、原告が訴外会社から被告に対する工事代金債権の請求並びに受領権限の委任を受けたとして該工事代金の支払いを求める訴は原告適格を欠くから不適法として却下し、その余の各請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 安芸保寿 加茂紀久男)

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